P22
分からないことがあっても気にならない。
おそらく彼女たちはその文字を読み飛ばしているからだと思うんです。
この「読み飛ばし能力」が今の若い人たちは、僕たちの想像を超えるぐらいに発達している。ページを開いて、パッと見たとき、その読み方が分からない、意味が分からない単語があったときに、それを軽々とスキップする。スキップしてもぜんぜん気にならない。
中略
分からない情報を「分からない情報」として維持し、それを時間をかけて噛み砕くという、「先送り」の能力が人間の際立った特徴なわけです。
ところが、この「矛盾」を「無純」と書く学生の誤字のありようを見ていると、どやらその「分からないもの」を「分からないまま」に維持して、それによって知性を活性化するという人間的な機能が低下しているんではないかという印象を受けます。
「分からないもの」があっても、どうやらそれが気にならないらしい。
P25
意味が分からないことにストレスを感じないということです。
彼らは「自分の知らないこと」は「存在しない」ことにしているということです。
P133
賃金が安いと感じる理由
P136
▲労働はオーバーアチーブ
「仕事をする」ということを消費の用語で考えるなら、すべての労働者はアンフェアな交換をしていることになります。
というのは、労働に対して賃金が安いというのは原理的には当たり前のことだからです。
賃金というのは労働者が作りだした労働価値に対して常に少ない。
当然です。
そうでなければ、そもそも企業は利潤というものを上げることができない。
労働というのは本質的にはオーバーアチーブなのです。
言い換えると、人間はつねに自分が必要とするより多くのものを作りだしてしまう。その余計に作り出した部分は、いわば個人から共同体への「贈り物」なのです。
動物は自分の生存に必要以上のものを環境から取り出すということはしません。
交換の場に差し出すために、自分が食べる以上のトムソンガゼルを殺して、「取り置き」しておくライオンというのは存在しません。
交換のために環境資源から余分に取り出すのは人間だけです。
それは
「他者と交換をする」
ということが人間の根源的な欲望であり、その欲望が人間の人間性の母型をかたち作っているということです。
どうして人間が交換をするようになったのか、その理由は誰も知りません。
レヴィ=ストロークが言うように、人間の作り出したすべての制度ー親族、言語、神話、宗教、経済活動などーの起源は闇の中に消えていて、誰もそれを言うことができない。
確かなことは、
「他者と交換をする」
ことへの灼けつくような欲望がすべての社会制度の根本にあるということだけです。