「無意識の意思」の国アメリカ―なぜ大国は甦るのか (NHKブックス) 単行本 – 1996/5
P10
・アメリカは「無意識の意思」を持った国だ。
そして、「無意識の意思」のもとで、この国は、ほぼ半世紀のサイクルで、国を「閉じたり」、「開いたり」してきた。
・日本は明治維新から太平洋戦争まで、「意識的な意思」を持った国であった。その意思は、多くの国民が「無意識的に共有」するものではなく、政府や軍部など「国家の中枢」が持った「意識的な意思」であった。
・アメリカは、ヨーロッパから派生し、建国されたにもかかわらず、ヨーロッパ型国家ではない。母国イギリスで、国家中枢に密着したアングリカン・チャーチ(英国国教会)に排斥、迫害されたピューリタンが作った国家だということを我々は忘れてはならない。
・アメリカは移民で作られた国だということ。そして彼等は、本国で迫害されたり、国際社会の主流にいなかったという事実。この事実がアメリカをして、強烈な「無意識の意思」の国家にしている。
中央が強制しなくても、ときどき、ばらばらな国民が一つのアイデンティティーのもとにまとまる慣性が働き、全体主義国家のように振る舞う不思議な国、それがアメリカだ。
p23
大国になる国家が国民へ出す第一のメッセージは、その国家が「実験国家」であることを知らせることだ。
p27
技術主義
人間社会は、往々にして、階層をつくりたがる。
・・・
イギリスには階級社会が根強く残っている。インドのカースト制ほどではないが、ちょっと訛った言い方ひとつとっても、この人は貴族出身だとか、どの地方出身だとか分かるらしい。
アメリカ英語の発音に近いアイルランド訛りの英語が軽んじられているのは、征服民族(ゲルマン語系のアングロ・サクソン人)と非征服民族(ケルト人)の確執も重なって、かなりのものだ。
そのイギリスでエンジニアは軽んじられている。
そもそも、技術は、職人的な匠の技から発達したものだ。
一方、物理とか化学などのサイエンスは、キリスト教における神との自然の対置から出てきたものである。
キリスト教は社会秩序を律する権力の中枢として発展してきた。
よって、その対置として出てきた、サイエンスも社会的な権力をもともと持っている。
このような理由で、サイエンスを重視する国家は、キリスト教国家が多い。
技術は社会的地位が低かったから、これらのキリスト教国家は技術を軽視するきらいがある。
p28
16世紀中葉、ヨーロッパ大陸では、プロテスタントとカトリックとは激しい権力闘争を繰り返していた。体制の権力は当然カトリック教徒が握っていた。
とりわけ、スペイン・ハプスブルク帝国は強大で、次に強かったのは、ブルボン朝のフランスとポーランド・リトアニア連合国のヤゲロ王朝であった。
とりわけ、フランスでは、カルバン派のユグノー教徒が着々と経済と技術を掌握しつつあった。
なぜなら、ユグノー教徒は、カトリックに対峙する反権力の政治スローガンとして無意識に「技術主義」をとっていたからだ。
経済力をましたユグノー教徒たちは、反カトリック戦争である有名なユグノー戦争を戦い敗北を喫する。
フランスを捨て、エクソダス(国家離脱)を開始したユグノー教徒を受け入れたのは、ドイツやオランダ、そしてイギリスなどといった非カトリック国家だった。
むろん、ユグノー教徒の産業力や技術力を利用したかったにちがいない。
しかし、本当の目的は、ユグノー教徒が標榜する技術主義を、反カトリックの政治思想として取りれ、スペインやポーランドのカトリック大国に対抗するためであった。
私は非キリスト教国が技術主義を取る場合は、ほぼ間違いなく、先進キリスト教国家に対抗するためだと思っている。
p30
よそ者主義
植民地侵攻や領土獲得、新しい技術や産業を作る場合、それを担う人間を「余所」から調達することが多い。そのほうが国家コストを節約できるからだ。
すなわち、フロントキャリアーは国民の中に存在するよそ者を呼ぶ別称なのだ。
アメリカは典型的な「よそ者主義」国家だ。
p34
そもそも、アメリカに渡った清教徒(ピューリタン)たちはフランス人ジャン・カルバンが始めたカルバン主義に属するプロテスタントである。
P135
アメリカの技術に貢献したよそ者たちの中で二コラ・テスラを忘れることができない。
テスラはユーゴスラヴィア紛争で有名になったクロアチアでセルビア人として生まれた。
教育はオーストリアのグラーツ工科大学やチェコのプラハ大学で受け、そこで誘電コイルの研究を行っていた。
26歳のときにヨーロッパのエジソン社に入り、シュトラスブール勤務を命じられた
このころ交流モーターの基礎になる誘導モーターの研究を独自に行っていた。
それから2年ののち、テスラはアメリカに渡り、エジソン研究所に入る。
エジソンは直流発電方式を実行に移して成功を収めていたから、交流発電を主張するテスラを嫌い、テスラもエジソンと大喧嘩してそこを飛び出してしまった。
テスラを待ち受けていたのが、鉄道用の空気ブレーキを発明し、巨大な市場に育ちつつある発送電業界への参入を虎視眈々とねらっていたジョージ・ウェスチングハウスである。
直ちにテスラの交流発電パテントを購入し、ナイアガラ瀑布を使った発電を開始した。
エジソンのジェネラル・エレクトリック社とウェスチングハウス社は直流か交流かで業界を真っ二つにする論争を展開したが、結局、長距離電送には交流のほうがよいことが判明し、この論争に決着がついた。
アメリカの電気を作ったテスラであったが、発明王エジソンの名に隠れ、アメリカ人にとってもテスラの名は親しい名前ではない。
彼は極端な人嫌いのうえ、人々の理解を超えたことを主張し、人々にあいつは頭が変だと言われ続けたのも、テスラがアメリカ人から受け入れられなかったことを物語っている。
電気製品を使うとラジオやテレビに雑音が入るのは、電気製品の中にあるトランスやモーターから誘導電流が空気中に電磁波を放出しているからだ。
この原理を発見したのもテスラなのである。
当時、線が結ばれていないところに電気が通じるなんて誰も考えていなかった。
よって、宇宙からの通信を自分は受けたと主張するテスラは精神障害者扱いされたのである。
しかし、
アメリカのエレクトロニクス時代の幕開けをつくった無線通信やラジオの基礎をつくった人がこの世その者テスラなのだ。