P56 イチロー・カワチ氏寄稿
・ニュージーランド、ウェリントンの病院内科医として働いていたとき、8割以上の患者は生活習慣美容だった。
・治療の後に、「生活習慣を変えるように」と患者に伝えても、また病院に戻ってくる。まるで、傷口にただ絆創膏を貼るだけのような医療の現状に限界があると感じ始めた。
川に例えると、医者がいるのは下流だが、病気に原因は上流にある。
そして、誰かが上流で、人々を病の川に突き落としている。
これを変えることで病気の予防ができないか?と考えた。
そして、医者を辞めて最初にかかわったのが、ニュージーランドの禁煙運動だった。
- たばこの広告をすべて禁止した。 -
フィンランドに続いて世界で2例目だった。
また受動喫煙を防ぐために、すべての職場を禁煙にした。
結果的に大勢の国民がたばこをやめた。
運動に数年間かかわって気づいたのが、喫煙の背景には経済格差の問題があるということ。
経済的にゆとりがある人はとっくにたばこをやめている。
吸い続けているのは貧困層。ストレスの多い環境にあると、たばこをやめられないのだ。
- 格差是正の秘策は幼児教育だ -
米国の実験で、スパルタ教育を受けたこどもは、その後、成績の悪い生徒に必要な学習支援を受ける率が半分だった。
大学への進学率も倍以上になった。
健康面では、喫煙率が20%程度低くなった。
経済面でも、スパルタ教育を受けた人たちは一定の水準の収入を保ち、持ち家率が高かった。
- 小学校教育では遅い? -
幼少期の生活習慣は人生を左右する。
学校に上がる時期には、すで格差ができてしまっている。
だから格差対策として、国が幼児教育を義務的に整備するべきなのだ。
幼児教育はまた、費用対効果が非常に高い施策でもある。
前述の大規模調査では、17%の投資効果があると結論づけられている。
お金に置き換えると、幼少期に100万円の教育投資をすれば、経済的地位が上がり将来の収入となって返ってくるなどで、毎年17万円分の利益が上がると言い換えられる。
これはどの銀行預金より高い利回りだ。
肥満を作るのは食品メーカーと車社会
米国に移住した人は出身国にかかわらず、5年間で平均して10キロ太った。
異なる遺伝子を持つ人が太るというのは、環境が影響している証拠だ。
食べ方の違いも大きい。
日米で比較すると、例えばお菓子の包装は日本では小分けが多い一方、米国では大きな一袋で売られている。
日本の懐石料理は小皿に少しずつ盛られるが、米国のレストランでは一つのプレートに料理が山盛り。これではつい食べ過ぎてしまう。